調べもの

書評

『勝てる民泊』

公開日:2023年01月15日

『勝てる民泊』山口 由美/著 新潮社 『勝てる民泊』山口 由美/著 新潮社

海外旅行とホテルの業界誌紙のフリーランス記者をしていた著者にとって、民泊は取材対象でしかありませんでした。しかし2018年秋に設計士から、物置と化していた実家の離れが「次の夏を過ぎればシロアリで廃屋になる」と宣告され、離れを改装し民泊として開業することを決意しました。

その後コロナ禍に見舞われ廃業する民泊が多い中で、著者の民泊はV字回復を見せます。その成功の大きな要因は、「手間はかかっても、アイディアと工夫を駆使して、唯一無二の価値あるものを提供し、新たな顧客を開拓する、新しい宿のかたちとしての民泊」を目指すという戦略でした。

本書は体験記としてまとめられており、家主非住居型(家主は不在で、民泊の運営を住宅宿泊管理業者に委託する方法)の民泊をオープンするための手続き、上質で居心地のよい宿への改装、ゲストやスタッフとオンライン上でつながる運営方法などが詳細に書かれています。成功した事例だけではなく、うまくいかなかった事例も紹介されており、民泊運営のノウハウを知ることができる一冊です。

『江戸式マーケ』

公開日:2022年12月15日

『江戸式マーケ』川上 徹也/著 文藝春秋 『江戸式マーケ』川上 徹也/著 文藝春秋

「シェアリングエコノミー」「ソーシャルビジネス」「デザイン経営」は、今日のビジネスで注目されるキーワードですが、400年も前の江戸時代にはすでに実践されていたとすれば驚きではないでしょうか。本書に取り上げられている、江戸時代のビジネス戦略からいくつか紹介しましょう。

三井高利は、呉服は掛け売りが一般的だった江戸で現金正価販売をして成功を収めました。他にも、ロゴマークが大きく入った傘の無料貸出によるPR、移転オープンの際のチラシを使った大々的な広告など様々な戦略を打ち出し、経営学者のドラッカーに「三井家の人間によってマーケティングは発明された」と言われています。

豊島屋十右衛門は、不景気の中、酒の「原価販売」で店を繁盛させました。この「原価販売」は大量注文で仕入れ値を下げ、空になった酒樽を仕入れ値の1割程度で売ることによって成り立っていました。他店の「原価」が豊島屋にとっては利益の出る値段だったという訳です。

他にも大丸、山本山、にんべんなど創業300年以上の老舗や蔦屋重三郎、紀伊国屋文左衛門といった商人の、今も最先端な50のビジネス戦略が、イラストとともに分かりやすく紹介されています。顧客のニーズを読み、前例にとらわれない戦略は、商売の本質は不変であることを教えてくれます。「温故知新」という言葉がありますが、江戸時代の商人たちから新しいビジネスのヒントが得られるのではないでしょうか。

『リモート疲れとストレスを癒す「休む技術」』

公開日:2022年11月15日

『リモート疲れとストレスを癒す「休む技術」』西多 昌規/著 大和書房 『リモート疲れとストレスを癒す「休む技術」』西多 昌規/著 大和書房

新型コロナウイルス感染症の流行が始まって約2年半。
この間に働き方にも大きな変化があり、今やリモートワークやオンライン会議の利用は、フルリモートで働く人だけでなく、様々な職場や場面で見られるようになっています。

本書では、このような働き方の中で生じる疲労やストレスの原因を探り、それを乗り越えるための「休み方」が紹介されています。
例えば、デジタルワークによる目の疲れに対処するための、20分おきに20秒の休息、20フィート(約6メートル)離れたものを見る、「20・20・20」の法則が紹介されています。パソコンやスマートフォンなどを見る時間が増えている現代では、誰にでも参考になる休息方法の一つではないでしょうか。

タイトルにリモートとありますが、睡眠習慣や体内リズムを整える方法、SNSの利用方法など、誰もがちょっとしたことで、心身を整える方法が紹介されています。
気になる項目だけを読むこともできるので、今抱えている不安や不調の対処方法、また普段の生活を見直すきっかけが見つかるかもしれません。

年末に向けて忙しくなる時期、上手な「休み方」を知り、新しい年に向けて心身を整えてみませんか。

『お金のむこうに人がいる』

公開日:2022年10月15日

『お金のむこうに人がいる』田内 学/著 ダイヤモンド社 『お金のむこうに人がいる』田内 学/著 ダイヤモンド社

ゴールドマン・サックスでトレーディングの仕事をしていた金融のエキスパートとも言うべき著者がこの本を書いたきっかけは、経済に関する2つの「謎」との出会いだそうです。

1つは「政府の借金の謎」、もう1つは「ざるそばの謎」。

この2つの謎を解き明かすために、お金とは何か、借金とは何かをとことん考え、経済を突き詰めて考えた先に見えてきたものは、お金ではなく「人」でした。経済の目的は「お金を増やすこと」と考えていると、お金を奪い合うために働くことになりかねません。自分たちが働くことでモノを作り出し、その効用で誰かの生活を豊かにしている、つまり誰が働いて誰が幸せになるのかを考えることで、経済の本質はシンプルで直感的に捉えることができると述べます。
 
円安ドル高や物価高など、新聞やテレビなどで報道される金融や経済の問題は、私たちの生活に大なり小なり影響があるにも関わらず、専門用語が多く難解だと敬遠しがちではありませんか。経済について考えるきっかけとして、この本を読んでみてください。

『瀬戸内デザイン会議1 この旅館をどう立て直すか 2021宮島篇』

公開日:2022年09月15日

『瀬戸内デザイン会議1 この旅館をどう立て直すか 2021宮島篇』瀬戸内デザイン会議/著 CCCメディアハウス 『瀬戸内デザイン会議1 この旅館をどう立て直すか 2021宮島篇』瀬戸内デザイン会議/著 CCCメディアハウス

「瀬戸内デザイン会議」は、デザイナーの原研哉氏などが主催し、瀬戸内エリアに限らず日本の新次元の観光ヴィジョンについて話し合われています。

第1回の会議には実業家や編集者、建築家、現代美術作家など様々な領域で未来を見据えている27人が集結。メンバーの一人、株式会社広島マツダ代表取締役兼CEOの松田哲也氏が取得した宮島の旅館の再生というテーマを軸に、レクチャーやセッション、プレゼンテーションが行われました。

この本は、その会議に参加しているように読み進められる構成になっています。示唆に富む数々の発言の中で、今後インバウンドが回復するという予測のもとでは、関西国際空港を使う外国人観光客の行動分析や海外での建築による街おこしの紹介などは大変参考になります。また、嬉野のお茶や四万十の栗などの事例に代表される「土地に根ざす」という考え方や環境に負荷をかけない観光という視点は大切にしていきたいものです。

今後の観光産業発展の道筋を示す本書は、組織や産業分野の枠を超えた交流や対話の価値を知ることができる一冊ともなっています。

『考えるとはどういうことか』

公開日:2022年08月16日

『考えるとはどういうことか』外山 滋比古/著 集英社インターナショナル 『考えるとはどういうことか』外山 滋比古/著 集英社インターナショナル

本書は、「知識と自由な思考は対立し、互いを圧迫するのではないか」と考える著者の、課題や問題にしばられることのない自由思考の軌跡を収めたエッセイです。

第一~第三人称までの人々に対して、劇の観客のような別次元の視点を持つ「第四人称」、知識と経験に創造的な思考を加えることで新たな価値を生み出す「触媒思考」など、著者独自の思考が6つのテーマで語られています。グローバル社会での外国との付き合い方、選挙での有権者の判断力、川柳や俳句の奥行のある世界、日本語の曖昧性など著者の自由な思考をたどっていくことが、「考えるとはどういうことか」という問いへの答えになるでしょう。

今日では、スマートフォンで検索すればいろいろな知識が簡単に手に入る一方で、情報過多による脳過労や思考力の低下などの問題が指摘されています。10年前に出版された書籍ですが、著者が言う「整理された頭を自由に働かせる思考」はますます重要になっているのではないでしょうか。

『顔認証の教科書』

公開日:2022年07月15日

『顔認証の教科書』今岡 仁/著 プレジデント社 『顔認証の教科書』今岡 仁/著 プレジデント社

本書は、ビジネスパーソン向けに、顔認証システムの仕組みや利用分野、今後の展望を分かりやすく解説しています。4章構成でそれぞれが独立した内容になっており、興味のあるところから読むことができます。

顔認証を使ったビジネスに興味があるという方は、第4章から読んでみてはいかがでしょうか。空港での手続きや観光地での料金の支払いを顔認証で済ませる社会実装事例や、がんの早期発見など医療現場での応用例などが紹介され、ビジネスにどう活用できるかが分かります。

第1章では情報としての顔の特徴とその認知・認証について、第2章ではAIによる顔認証の仕組みが述べられています。なるべく数式を使用せず説明しているため正確ではない部分があるそうですが、コンピュータに詳しくない方でも理解できるよう書かれています。

第3章では、経営者やマネジメント層、技術者の方への「モノづくり」のヒントとして、企業の一員である著者の研究過程が語られています。研究を引き継いだ当時、研究チームは社内では日の当たらない存在で、開発した顔認証技術はエラー率が30%になるケースもあり、チーム存続の危機まで状況が悪化。そこから一念発起して世界一の評価を獲得し、さらに顔認証技術の分野で常に世界をリードする存在となった現在まで、どのように取り組んできたかが分かります。また、役員から「トップになってどういう意味があるの?」と問いかけられたことなど、企業技術者として自分の研究の社会的価値を考えることや人に伝えることの重要性を感じたエピソードも紹介されています。

『テクニックに走らない ファシリテーション』

公開日:2022年06月15日

『テクニックに走らない ファシリテーション』米井隆・岩本宏輔・森各/著 産業能率大学出版部 『テクニックに走らない ファシリテーション』米井隆・岩本宏輔・森各/著 産業能率大学出版部

会議やプロジェクトなどを効率的にまた円滑に進めることは大切な事です。そしてそれらを進めていくためには、中心的な役割を担う人「ファシリテーター」が必要になります。

本書では、押さえておくべきファシリテーションの基本技術と合わせて、会議をゴールに導き参加者を満足させる「ちゃんとうまいファシリテーター」になるための2つのセンスと3つのスタンスが紹介されています。

例えば求められるセンスの一つとして「目利き」があり、ファシリテーターは「場」「話」「意図」「感情」の目利きであることが重要であると言い、それぞれのポイントや「目利き」のセンスを磨くためにできる日ごろの心がけが紹介されています。そして、テクニックに走らないために、観察し、解釈し、そして行動するための思考モデルも紹介されています。
また、オンライン会議におけるファシリテーションについても触れられています。

本書を読むことで、今の自分の物事の見方や考え方を振り返ることもでき、新たな気付きと発見に繋がるのではないでしょうか。また「センス」と「スタンス」を身につけることは、コミュニケーション力を向上させるためのヒントにもなりそうです。

『アイデアのつくり方』

公開日:2022年05月15日

『アイデアのつくり方』ジェームス・W.ヤング/〔著〕 今井 茂雄/訳 CCCメディアハウス 『アイデアのつくり方』ジェームス・W.ヤング/〔著〕 今井 茂雄/訳 CCCメディアハウス

「アイデアをカタチに」とは、ビジネス関係の本でよく目にするフレーズです。しかし、その肝心のアイデアを思い付かないときはどのようにしていますか。

1910年代にアメリカの広告代理店J・ウォルター・トンプソン社でコピーライターとして働き始め、後にアメリカの広告産業界に多大な影響を与えた人物であるジェームス・ウェブ・ヤングは、自身の経験などからアイデアとはどういうものなのか、その原理を解き明かし、アイデアをつくるための方法を提唱しました。

アイデアをつくるための手順として5つの段階をあげ、決して容易なことではないがこれを実行すれば誰でもアイデアをつくる能力を高めることができると言います。

アメリカで原著が出版されたのは1940年。以来読み継がれており、日本でもビジネス書の基本書となっているようです。

『働きだして見つけた夢』

公開日:2022年04月15日

『働きだして見つけた夢』日本ドリームプロジェクト/編 いろは出版 『働きだして見つけた夢』日本ドリームプロジェクト/編 いろは出版

「夢」を辞書で調べると、「将来実現したい願い」とあります。働きだすと、最初に抱いていた夢や理想と現実の差に悩み、目の前の仕事に追われ、今のことが精一杯という人も多いのではないでしょうか。

本書では、社会人1年目から46年目までの、職種や仕事に就いた理由も違う22人が、仕事を続けるなかで見つけた夢を率直に語っています。自分の企画の放送を夢見る1年目のテレビ局AD。学べることをたくさん吸収し、会社の最先端を走れるようになりたい6年目の鉄工所員。「またあの人に会いたいな」「あの本屋さんにいきたいな」と思ってもらえる店にすることが夢の27年目書店員。「これを見てください」と言える字を書くことが生きる目標であり、夢という44年目の書道家。いろいろな壁や悩みを乗り越えた彼らはみな、素敵な笑顔をしています。

「何歳になっても、夢はなくならないし、何年働き続けても、新しい夢はまた始まっていく。そうして、ずっと夢に向かっているからこそ、笑顔で働いていられるんだ。」忙しい毎日であっても時には立ち止まり、自分の夢を考えてみることは、前向きに働く原動力になるのではないでしょうか。