公開日:2019年04月16日
「「伝えたい」気持ちをなんとかしたい」、この一文から本書は始まります。著者は20年以上コピーライターとして活躍し、数多くの賞を受賞し、現在、関西大学社会学部の教授を務めている山本高史さんです。
本書は、「伝えるフローチャート」をもとにインプット、アウトプットに分け、伝わらない原因を4つ挙げ、各章でその解消法の提案がされています。
第1章「「言葉のメカニズム」を知る」では、「受け手という存在を認識・理解していない」ことが伝わらない原因の一つであると書かれています。普段はなかなか意識しないが、独り言や寝言やノートの落書きでもない限り、言葉を発すれば必ず自分は「送り手」になり、聞く側は「受け手」になる。その言葉は、自分の意図とは関係なく、受け手が受け入れるか、受け入れないかのすべてを決める。また、受け手は言葉に対して、無視、拒絶、同意の3通りをとることができるが、得になる「ベネフィット」があれば、同意する。ただ、ベネフィットは受け手の置かれている状況によって変化することを理解することが大事だと述べています。
第2章、第3章では、受け手の状況を理解し、伝えるための発想の訓練方法が具体例を使って解説してあります。
第4章「「言葉」の使い方」では、伝えるためには、言葉の持つ意味を共有することが必要であり、曖昧な言葉は、主観により理解されるため、避ける方がよいことが示されています。
新年度、新たな出会いも多い時期です。本書を読んで、「伝える」ということを改めて見直してみてはいかがでしょうか。
公開日:2019年04月11日
雲海の美しさで知られる、兵庫県丹波市氷上町。ここに通信販売専門の"旅する"パン屋「ヒヨリブロート」の厨房があります。
このパン屋を一人で経営する塚本久美さんは、大学卒業後、一般企業に勤めていましたが、パン職人の道を目指し退職、東京都世田谷区の「シニフィアン シニフィエ」で7年間修業生活を送ります。様々な人との出会いから、それまで縁もゆかりもなかった丹波市にひきよせられ、店舗を持たないパン屋をオープンさせます。
「ヒヨリブロート」の大きな特徴のひとつに、月の満ち欠けによってパンづくりのスケジュールを決めるというものがあります。パン作りを学んだドイツで出合ったもので、ドイツには月齢で農作物を育てる方法があり、パンづくりにおいても発酵の速度の変化などの影響があるとのこと。
月齢に合わせて20日間パンを焼き、10日間はパン作りを休み、食材の生産者を巡ることができるこのスタイルは、ユニークであるとともに、パン職人として働きながらも、食材探しの旅にも出かけたいという願いも叶えるものでした。
こだわりを持ちつつ、会社員時代の経験をいかし、ビジネスとして成立させるために、塚本さんはコスト意識も大切にしており、コストに対する利益率を考え、ふさわしい価格で売るために工夫を重ねています。また、パンを作らない時期には、パンを直接販売するイベントや異業種とのコラボも行っています。
26歳でパン職人としては遅いスタートを切り、遠回りをしたのではと悔やんだこともあったそうですが、今は何一つ無駄ではなかったと実感しています。
この本には、「ヒヨリブロート」で大切にしているパンづくりの考え方、食材の生産者とのつながり、働くという意味など、パン職人・塚田久美さんの働き方、生き方がつまっています。
同じパン職人の伴侶とも出会い、「パン職人夫婦」としての新しい試みも始めているとのこと、これからの「ヒヨリブロート」がますます楽しみです。
公開日:2019年02月16日
この本は、東京で偶然出会ったスリランカ人に1万円を貸したことをきっかけに、内戦が続くスリランカの国を巻き込んだ事業に挑んだパワーに満ちた起業家の実話です。
著者は当初、魚市場で働いてお金を貯めながら、中古機械の輸出ブローカーの会社を経営していましたが、スリランカ初のペットボトルリサイクル工場『ミチランカ』を創業します。そして様々なトラブルが起こるなかで、赤字続きのペットボトルのリサイクル工場の生き残りをかけて、紅茶ビジネス、宝石ビジネス、高級食材のフカヒレビジネスなど事業に挑戦しては失敗し、ぎりぎりの状況に追い込まれていきます。
しかし、工場が野良ゾウの襲撃に合ったことから、ゾウと人間の共存を考えるようになります。そこでゾウの糞でできた紙に、「ぞうさんペーパー」と名付け、起死回生を図ります。「ぞうさんペーパー」の工場をつくり、画用紙やノートやカードなど手作り文具を生産し、日本で積極的に営業活動を行い、ついには「ハンズ大賞」に選ばれるまでになりました。やっと軌道にのったところで発生した、ゾウの糞がワシントン条約に抵触するという問題も、諦めず自分の力で打開していきます。
また、著者は、田舎町で仕事がないことで、若者の多くが兵役を志願して命を落としてしまう厳しいスリランカの現実に直面し、スリランカの若者を一人でも多く雇用できる事業をめざすようになります。スマトラ島沖巨大地震や東日本大震災、そしてビジネスパートナーの死という次々と襲う苦難を乗り越えつつ、家族のことを守りたいという思いがつのり、祖父母が住んでいた限界集落への移住を考え始めます。
現在は、過疎の進む田舎町広島県山県郡北広島町に移住し、「ぞうさんペーパー」を作って販売しながら、「芸北ゾウさんカフェ」を経営し、変わらずリスクを恐れず新たなビジネスに挑戦し続けています。驚きと笑いや涙ありの元気が出る一冊です。
公開日:2019年01月17日
身体のパフォーマンスが下がると、20代、30代でも疲労感が出てきます。40歳を超えたあたりから、ある一定の体質に偏っていく傾向があり、これが「老け込む」ということだと著者は述べています。
著者は東洋医学を専門とする鍼灸師であり、その立場から、「老け込む」ことへの対処法を「食事」「休息法」「生活習慣」に分け、様々な方法を紹介し、自分自身の身体の状態にあった「オーダーメイドの体調管理」ができるよう解説しています。
第2章「常に調子よくあるための最強の『食事』」では、昨今、糖質を摂ることを避けがちになっていますが、「糖質制限」よりも「満腹にならないこと」が大切で、考える仕事には糖質は必須であり、「頭脳労働者」にとっては糖を抜きにして、いい仕事はできないと説明しています。また、「朝の緑茶」はコーヒーの10倍パフォーマンスを上げるなど、簡単に身体を整える方法も紹介してあります。
第3章「一流と二流を分ける最強の「休息法」」では、正しい休息をとることが基本であり、その休息に必要なものとして睡眠を挙げ、睡眠をとっても疲れがとれない原因として、身体を修復する「成長ホルモン」の分泌量の減少を指摘しています。睡眠中の成長ホルモンの分泌を促すには「就寝する2時間前に、5分間だけ軽い筋トレ」を行うことが有効であり、その筋トレ方も示しています。
この本には生活に取り入れやすいものが多くあります。自分に合ったものを取り入れ、身体のパフォーマンスを上げる体調管理を行い、老けない身体を目指してみてはいかがでしょうか。
公開日:2018年12月19日
著者の小暮真久氏は、「企業の社員食堂にカロリーを抑えたヘルシーメニューを加えてもらい、その代金のうちの20円が開発途上国の子どもたちの給食一食分として寄付される。そのことで、貧困とメタボリック・シンドロームという二つの社会課題を同時に解決することを目指す」というコンセプトで、2007年にNPO法人TABLE FOR TWO International」を立ち上げました。その2年後の2009年に本書の旧版を執筆・出版しています(2010年度ビジネス書大賞新人賞(ビジネス書大賞実行委員会/主催)を受賞)。
活動は、当初の多くの給食を供給することから、少しでもおいしいものを届ける、そして体にいいものを届けることに変わっていき、地元の自立を促す取組も行っています。
前書から10年間の活動が「どこまでたどりつけたのか。そして、本当に新しい働き方を示すほどの成果を出し続けられているのか。」についてを書き加えられており、試行錯誤しながら活動を広げている姿が伝わってきます。
日本では、社会事業の歴史は浅く「社会事業なんて仕事じゃない」「善意のある人が無償でやるべきこと」という見方が多い中、著者が何を考え、具体的にどのように「しくみ」を考え仕事をしているのか、また社会事業をビジネスとして行うことについてわかりやすくまとめられています。
「今の仕事が天職だ」と語る著者の「想い」を感じると共に、「社会起業家」として働くとはどういうことなのかを考えることのできる一冊です。
公開日:2018年11月18日
近代物理学の祖、ニュートンは「なぜリンゴは落ちるのか?」という問いから、万有引力を発見し、物理学に進歩をもたらしました。自動車の組み立ては、昔は一か所で作業員が入れ替わり立ち替わり来て、順次組み立てていましたが「人間が移動するのではなく、車が移動することができないか?」という問いから、ベルトコンベヤー式の自動車組み立て方法が発案されました。
このように、人は質問を発し、その答えを求めることにより、文明を発展させ、快適な生活を実現させてきました。
本書では、裁判で証人尋問を行うなど「質問のプロ」とも言える弁護士である著者が、質問の持つ大きな力について、さまざまな事例から、わかりやすく伝えてくれます。
質問をされると、人はその質問に答えようとして、考え、そして答えを出します。この質問による「①思考」と「②答え」の強制力という2つの機能により、情報を得たり、人を育てたり、自分をコントロールするなどの6つの力を手にすることができると著者は言います。
第1章「知りたい情報を楽々獲得する6つのテクニック」では、何を目的とするかを明確にすることの重要性や、質問を始める前にチェックするべきポイントなどを知ることができます。
第2章からは、聞くだけで人に好かれたり、人をその気にさせたり、人を育てることができる「いい質問」について学ぶことができます。
最終章の第6章では、"自分を変える「いい質問」"というテーマで、仕事や日常生活で役立つ様々な質問のテクニックを、自分に対して生かす「質問ワーク」もあります。
章の終わりごとには、ポイントをまとめたシートもあり、各章での学びを自分でフィードバックすることもできます。
「質問する力」を高めることは、人間理解を深め、さらには自分自身をよい方向に変え、人生で成功する力を身につけることに等しいということを、さまざまな事例を通して実感させてくれる本です。
公開日:2018年10月24日
この本は、「そよ風の扇風機」として、ドラマに登場し話題となった製品の開発秘話に協力したバルミューダ株式会社 代表取締役社長 寺尾 玄氏が、山あり谷ありの多彩な人生を書いたものです。
「無茶で情熱的」そして「偉大な」両親の話、父や母からの教えやすすめられた本・映画の話、自然の中での暮し、不良仲間とバイクで走った高校時代、高校を辞めて、スペイン・イタリア・フランスを旅した話、ロックスターを目指した時代、そしてものづくりに新たな夢を見出し、ヒット商品を生みだすまで、まるで小説のように語られています。
数々の驚きと失敗の中で、根底にあるのは、両親からの「いつでも真剣に生きること、常識にとらわれずに自由に考えること、本気で夢を信じていいこと」という教えです。そして、全く知識も経験がなくても、行動を起こして、自分で本を読んで勉強し、その情熱を伝えることで協力者を見つけ、ぎりぎりの状況からチャンスを掴んでいきます。
寺尾氏がものづくりを仕事にしたいと思い、製作所を回り、会社を立ち上げ、こだわりの商品を生み出すまでの怒涛の日々は、リスクを負いながらも、世界中の人が欲しがると信じて、夢にすべてをかけての挑戦の連続です。
「人生は切り開くことができる。いつでも、誰でも、その可能性を持っている」という信念をストレートに伝える一冊です。
公開日:2018年09月19日
「センベイブラザーズ」は東京で4代続く煎餅工場、笠原製菓が展開する小売ブランドです。
1959年、著者の祖父母が「笠原煎餅屋」を立ち上げ、父、叔父がその跡を継ぎましたが、病に倒れてしまいます。2014年、兄が家業を継ぐ決断をし、弟が煎餅を焼いて、兄が売るセンベイブラザーズが誕生します。兄弟が家業を継いだ時に、経営は倒産寸前の危機的な状況でした。
「金なし、時間なし、経験なし」で始まったセンベイブラザーズですが、工場直売から始め、駅での販売、催事場、ブランドとのコラボレーションと販路を拡大します。2015年からは「せんべいを、おいしく、かっこよく。」をコンセプトに掲げ、今では入手困難な人気煎餅屋です。
工場直売を始めた時には、どのような目的で購入されるのかそれまで知らなかった隠れたニーズに気づき、催事場の経験では、その場では良い結果が残せなくても、次につながる足跡を残すことの大切さを学び、家業に入る前にしてきた様々な仕事もどれ一つ欠けても今には至らなかったと著者は述べています。
煎餅職人である弟は、受注生産をしていた頃には「怒られない仕事をやろう」という心持ちでしていたが、自分たちで考え、直接販売するようになり、胸を張って「煎餅職人」と言えるようになったと述べています。
様々な経験は全て今につながり、仕事を自分の事として行い、自信をもって続けることが大切というセンベイブラザーズの経験は、どの仕事においても参考になるのではないでしょうか。
公開日:2018年08月17日
新しいビジネスを始めようとする時や、企業の中で新しいモノやサービスを考え、提供する時にまず求められるものは何でしょうか?
それは「新しい価値の創造」です。
本書では「新たな価値をどうすれば発想できるか?」、「誰もが初めて聞くような画期的な新価値を、組織でどうやって意思決定するのか?」という2つの壁を乗り越えるために必要な、「気づき」、「アブダクション(仮説的推論)」、「統合」といった8つの理論を物語と絵で説明しています。
フィリップ課長から、「会社の将来を支える新しい価値の創造を、君が担当してくれないか?」と指示を受けた若手社員ジョージ君は、仲間とともに悪戦苦闘しながら、これらの理論を学んでいきます。
「新たな気づきを得る」から、「これまでと違う行動を取る」までを自分であればどのように取り組むか、一緒に考えてみてはいかがでしょうか。
公開日:2018年07月31日
仕事や活動など多忙な中、何かを学びたいとき、自分のペースでできる「独学」を選択する人は多いと思います。本書では、独学で外資系コンサルタントになった著者が、自身が構築した知的戦闘力を向上させることができる「独学の技術」を、詳細にわかりやすく伝えてくれます。
まず大切なのは、独学を「システム」として捉えることで、そのシステムは大きく①戦略、②インプット、③抽象化・構造化、④ストックという4つの要素で構成されます。
限りある時間の中で、何をインプットするのか、何をインプットしないのかを決める「戦略」を立て、本やネットに限らず様々なソースから、自分の五感を通じて「インプット」する。さらにインプットした情報について、細かい要素は捨て本質的なメカニズムだけを抽出する「抽象化」、他のものと組み合わせたりして独自の視点を持たせる「構造化」を経て、「ストック」した上で、ストックした知識を引き出せるシステムを作るところまでを、具体的な事例や先達たちの言葉も織り込みながら、くわしく説明しています。
身の丈に合ったインプットを心がけること、自分らしい「問い」を持つことの大切さなどにも触れていて、例えば「問い」を持つことで人間や世界に対する理解や関心が深まり、ビジネスに関連するものの見方にも新しい刺激を与えてくれるとも述べています。
最終章となる第5章「なぜ『知の武器』になるのか?」では、教養を高める有用なジャンルとして、"リベラルアーツ"と呼ばれる歴史、心理学、音楽、文学など11ジャンルを挙げ、それぞれお薦めの書籍も紹介されています。
「独学の技術」を磨くことは、よりよい仕事につながるとともに、しなやかな知性を育み、それが本当の意味で豊かな人生につながることを気づかせてくれる本です。