調べもの

書評

『電通現役戦略プランナーのヒットをつくる「調べ方」の教科書』

公開日:2022年03月15日

『電通現役戦略プランナーのヒットをつくる「調べ方」の教科書』阿佐見 綾香/著 PHP研究所 『電通現役戦略プランナーのヒットをつくる「調べ方」の教科書』阿佐見 綾香/著 PHP研究所

タイトルにある「調べ方」は、マーケティングリサーチ(マーケティング活動を行う上で必要となる情報を収集し分析する調査)を指しています。「ヒットは「調べ方」が9割」と言う著者のノウハウを盛り込んだ一冊です。

著者は、株式会社電通の戦略プランナーで、企業のマーケティング、経営戦略、事業・商品開発などに従事し、セミナー、講演、社内研修等の講師経験も豊富です。

ヒットをつくるための正しい「ターゲット」と「セールスポイント」を見つける第1歩は、それらの仮説を立てること。次に仮説を検証し分析するにはどのようなリサーチの手法が適切かを決めます。そして実行し、結果を踏まえて仮説をブラッシュアップするというサイクルが重要だそうです。

リサーチの手法は、「ヒット商品開発リサーチ」「戦略リサーチ」「ロングセラーリサーチ」の3つに分けて紹介しています。特に「戦略リサーチ」を重点的に扱い、3C分析の市場・顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)を丁寧に解説しているので、理解を深めることができます。

500ページにもなる分厚い本ですが、作業服専門店「ワークマン」や化粧品メーカー「コージー本舗」の「つけまつげ」などの成功事例を基に読みやすく書かれています。また、今知りたいことや気になったところから読めるよう目次や索引が充実しています。

本書で紹介している官公庁や業界団体、金融機関が発行した統計資料等は、中央図書館に備えていますので、ぜひご活用ください。

『新聞記者、本屋になる』

公開日:2022年02月16日

『新聞記者、本屋になる』落合 博/著 光文社新書 『新聞記者、本屋になる』落合 博/著 光文社新書

「人生100年時代」と言われる昨今、ライフスタイルを考える上で、定年後の第二の人生をどう過ごすかは大きなテーマのひとつです。

毎日新聞の記者だった著者、落合博氏は、65歳まで会社に残るという道もある中、58歳で退職して本屋「Readin' Writin' BOOKSTORE」を開業し、今では行ってみたい魅力的な本屋として雑誌などにたびたび取り上げられています。

街の本屋が次々と消え、本が売れない時代において、本屋を開くのが夢だったわけではなく読書家でもない著者が、どうやって本屋を開業したか、この本にはその道のりがつづられています。

著者は最初に開店日を2年後の4月23日「サン・ジョルディの日」(スペイン・カタルーニャ地方の祝祭日で、大切な人にバラの花や本を贈る習慣がある)に設定します。そして、仕事の合間に本屋を巡り可能であれば店主に話を聞き、膨大な量の本や雑誌から情報を集めます。さらに、起業者対象のセミナーに参加し、出店場所や店名を決めるなど、開業というゴールに向かい準備を進めていく中で自分が目指す本屋のイメージが固まっていったと語っています。

「本屋を始めるには、とにもかくにも準備が大事。(中略)スポーツに喩えれば試合が始まる前にほぼ勝敗は決まっている。どれだけ練習したかだ。」という言葉に、著者の成功の秘訣があるのではないでしょうか。

『センスがないと思っている人のための読むデザイン』

公開日:2022年01月15日

『センスがないと思っている人のための読むデザイン』鎌田隆史/著 旬報社  『センスがないと思っている人のための読むデザイン』鎌田隆史/著 旬報社 

「センスがないと思っている人はかつてのぼく」だと著者は言います。
本書は、デザイナーである著者が自身の経験を発信しているメルマガを基に、幅広い立場の人に気軽に読んでもらいながら「深いデザインの本質」まで足を踏み入れてほしいという思いで書籍化したものです。

街へ出て自分が素敵だと感じるものを見つけ、写真や絵、切り抜きをスクラップして自分だけの「お楽しみノート」を作ること、通勤電車の中で中刷り広告などを見てそのデザインで何を伝えようとしているのかを探す「コンセプト探しゲーム」をすることなど、誰でもすぐに取り組めることでデザインへの理解を深める術を教えてくれます。また、それらを続けていくとどのようなセンスが磨かれていくのかも分かります。

何かの商品を作る時だけではなく資料を作るときにも、デザインは視覚に訴える上で有用なスキルだと思います。デザインすることが苦手だと感じている人、デザインの基本を知りたいと思っている人、そして本当に読むだけでいいの?と思った人にも読んでみてほしい、仕事に生かせるヒントが詰まった1冊です。

『リーダーを目指す人の心得』

公開日:2021年12月15日

『リーダーを目指す人の心得』コリン・パウエル/著 トニー・コルツ/著 井口 耕二/訳 飛鳥新社(書影は文庫版です) 『リーダーを目指す人の心得』コリン・パウエル/著 トニー・コルツ/著 井口 耕二/訳 飛鳥新社(書影は文庫版です)

ストリートキッドから登り詰め、黒人で初めてアメリカ軍の統合参謀本部議長や、ジョージ・W・ブッシュ政権の国務長官などを歴任したコリン・パウエル氏が大切にしてきた教訓や逸話を語っている本です。

「やればできる」、「他人に自分の道を選ばせてはいけない」、「冷静であれ、親切であれ」などの本人が座右の銘としている「13カ条のルール」。「わかっていることを言え」「わかっていないことを言え」「その上でどう考えるのかを言え」「この3つを常に区別しろ」という、部下から必要な情報を得るために設定した「4カ条のルール」。新しい部下に配るメモ「私の側近として生き残る方法」など、リーダー、部下それぞれの立場にある人の心得が数多く紹介されています。

ベトナム戦争やイラク戦争など多くの体験談も語られていますが、「人生で一番大きいのは、出会った人々とどのように触れ合ったか。人生は全て人。今の自分があるのは人生で出会った多くの人々のおかげ」と、人を最も大事にされてきたパウエル氏の、謙虚で誠実な人柄がにじみ出てくる内容です。

残念ながら、2021年10月18日に、新型コロナウイルス感染症の合併症のため84歳で亡くなったパウエル氏の言葉は、仕事をする全ての人に向けてのヒントが詰まっています。

『風のマジム』

公開日:2021年11月16日

『風のマジム』原田 マハ/著 講談社  『風のマジム』原田 マハ/著 講談社 

「ラム酒を造りたいんです。南大東島産の」。
偶然社内ベンチャーコンクールの募集を知り、さとうきびからできる「風の酒」アグリコール・ラムを造ると決めた通信会社の派遣社員、伊波まじむ。「思ったら、即、行動」がチャームポイントのまっすぐなまじむの行動は、製糖以外の産業に活路を見出したい南大東島の商工会会長、村長をはじめ、会社の役員など多くの人の心を動かし、沖縄初のアグリコール・ラム『風のマジム』が出来上がります。
出来上がるまでの道のりは決して順風満帆だったわけではなく、工場の候補地である島の製糖会社の反対にあい、希望する醸造家には一度断られるなどたくさんの試練が待ち受けていました。

挫折しそうになるたびに、家族や周りの人たちに助けられながら、長い歳月をかけて夢を実現する物語に、信念を持って奮闘する姿は人を動かすのだと思わずにはいられません。
この小説は、著者が作家として活動する以前、取材で出会った女性がモデルになっています。彼女は実際に、社内ベンチャー制度を活用して南大東島にラム酒製造の会社を2004年に設立しました。その後も販路開拓や商品開発をしながら、現在もアグリコール・ラムをはじめ、複数の商品を世に送り出しています。

『言語化力』

公開日:2021年10月27日

『言語化力』三浦 崇宏/著 SBクリエイティブ株式会社 『言語化力』三浦 崇宏/著 SBクリエイティブ株式会社

2016年にツイッターに投稿された「保育園落ちた 日本死ね」という言葉が国を動かすきっかけになりました。今、自分の意見をSNSなどで不特定多数の人に向けて自由に発信し、人を動かすことができます。著者は、このような状況を「誰もが『伝える価値』を持つ時代になった」のだと言います。

本書では、言いたいことがあっても自分の考えをうまく言葉で伝えることができない人に向けて、言葉を使いこなし、人を動かし未来をつくることができる実践的な方法が書かれています。

思考を言語化するには、0:スタンスを決める、1:本質をつかむ、2:感情を見つめる、3:言葉を整えるというプロセスが必要で、まず大切なのは、悩んでばかりいないで頭と手を動かすことだとしています。そして、「言葉の因数分解」で自分を見つめ直す、求められていることを思考し印象に残る言葉を生み出す、「数字より言葉の論理」で説明して言葉で人を動かすというステップで、様々なスキルを解説しています。

著者の三浦氏は、博報堂を経て独立しThe Breakthrough Company GO(ザ・ブレイクスルーカンパニー ゴー)の代表、PR/クリエイティブ・ディレクターで、雑誌「ブレーン」(宣伝会議)の「2019年注目のクリエイター」に選出されるなど広告業界の先頭に立って活躍しています。子どもの頃から無数の絶望の瞬間をいくつもの言葉に救われ、また、言葉で闘ってきた経験から得たという「言葉を最強の武器にする」術を知り、自分の未来への可能性を広げてみませんか。

『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』

公開日:2021年09月15日

『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』瀧本 哲史/著 星海社 『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』瀧本 哲史/著 星海社

2012年6月30日、東京大学伊藤謝恩ホールで、参加資格を29歳以下に限定し全国から約300人の若者が参加した講義が行われました。その様子を完全収録したのがこの本です。

講師を務めたのは、エンジェル投資家(創業間もないベンチャー企業に資金を提供する個人投資家)として活躍するかたわら、京都大学で起業論を教え、若者に向けて本を書くなど教育者としての一面も持っていた瀧本哲史氏です。

講義では、「次世代の君たちはどう生きるか」をテーマに、これからの世の中をつくっていくのは君たち若い世代であり、君たちが世の中を変えるんだ、そのために自分で考え自分で決めろ、行動しろと、参加者にエールを送ります。そして講義の終わりに参加者とある約束を交わし、「ボン・ヴォヤージュ」(よき航海をゆけ)という言葉で締めくくられました。

残念ながら、瀧本氏は2019年に亡くなられ、その約束を果たすことはできませんでした。けれども、若者に未来を生き抜く力を身につけてほしいという著者の思いは、時を経ても、今この本を読む若い人に普遍的なメッセージとして届くのではないでしょうか。

『寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった「つながる作法」』

公開日:2021年08月15日

『寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった「つながる作法」』キングジム公式ツイッター担当者/著 KADOKAWA 『寄り添うツイッター わたしがキングジムで10年運営してわかった「つながる作法」』キングジム公式ツイッター担当者/著 KADOKAWA

本書はひょんなことから「不器用ながらも、ありったけの勇気を振りしぼって続けてきたツイッター運営の10年間の軌跡」を、当時のエピソードを交えながら語られています。

今では約43万人がフォローしているキングジム公式ツイッター。始まりは2010年2月、社長の「ツイッターって、知ってる?」という一言からでした。超のつくツイッター初心者だった担当者(著者)は、自分の会社を好きになってもらうことを目的にツイッターの発信を始めます。

まずは担当者に親しみを持ってもらえるよう、時には会社とは全く関係のないテーマも発信しながら、ツイッター運営の試行錯誤を重ねました。次第に、一方向から双方向のコミュニケーションへと運営スタイルが確立されていき、開始5年目には「キングジム姉さん」というパーソナリティでフォロワーに受け入れられるまでになります。

担当者は、公式ツイッターは生活者と会社をつなぐ「架け橋」という思いで、自分は何ができるのかを常に考え生活者の視点に立って発信を続けました。手探りでやる仕事には明確な答えがない、それでも「どんなことが起きても諦めない粘り強さ」と「ほんの少しの勇気」、この二つがぶれずにあったから続けてこられた、毎日の積み重ねが成長へつながると言います。

どのような仕事にもはじめてがあります。プレッシャーを感じたり迷ったりすることも多いでしょう。そんなとき、仕事の取り組み方や人と人との繋がりの大切さを考えさせてくれる一冊です。

『図解あなたの天職がわかる16の性格』

公開日:2021年07月15日

『図解あなたの天職がわかる16の性格』ポール・D.ティーガー/著 バーバラ・バロン/著 栗木 さつき/訳 主婦の友社 『図解あなたの天職がわかる16の性格』ポール・D.ティーガー/著 バーバラ・バロン/著 栗木 さつき/訳 主婦の友社

自分にはどのような仕事が向いているのか。自分の長所を伸ばし、短所を克服するにはどうすればいいのか。今の職場環境では自分の実力を発揮できていないのではないか。このように考えたことがある人は多いのではないでしょうか。

本書は、性格タイプ判別法「MBTI」を基に、人の性格、タイプを外向or内向、五感or直観、思考or情緒、決断or柔軟のそれぞれの組合せで、16通り(責任者、努力家、社交家、組織人、冒険家、実務家、楽天家、職人肌、リーダー、アイディアマン、企業家、戦略家、チームプレーヤー、理想家、創作者、芸術家)に分けて、それぞれの性格、タイプごとの長所・短所・実力を発揮できる職場環境、就職・転職活動で成功をおさめるヒント、向いている職業等を分析しています。

これから将来の仕事について考える方や就職・転職活動中の方は職業選びの参考に、現在仕事に就いている方は、自分に合う職場環境づくりを考えるきっかけや方向性のひとつとして、自分の性格タイプや向いている仕事を確認してみてはいかがでしょうか。

『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』

公開日:2021年06月15日

『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』大阪大学ショセキカプロジェクト/編 大阪大学出版会 『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』大阪大学ショセキカプロジェクト/編 大阪大学出版会

「ドーナツを穴だけ残して食べる方法は?」
一見、馬鹿げて見えるこの問題に、大阪大学の様々な分野の研究者12人が、「結構本気で」取り組んでいます。

工学者はドーナツを極限まで削る方法を考え、美学者は「ドーナツは家である」という結論にたどり着き、数学者は4次元空間を使えばドーナツの穴を認識したまま食べることは可能だとし、歴史学者はミクロとマクロの2つのアプローチがあると言います。もとは一つの問いですが、語られる内容は実に多種多様で、答えは必ずしも一つではないことに気づかされます。

このユニークな本は、「学生が企画する本を学生の力で出版する」を最終目標に、大学教員と大学出版会のサポートの下、企画から編集、販売までを学生が中心になって作り上げたものです。学生によるあとがきを読むと、学生たちの熱い思いと、1冊の本を作り上げ買ってもらうためのたくさんの苦労と工夫が伝わってきます。

日々の生活や仕事の中で、「できるはずがない!」という問題に対峙したとき、この本での挑戦のように、本当に方法はないのか疑い、最初からあきらめず考えてみることで、新たな可能性が見えてくるかもしれません。