調べもの

書評

『最強の自社ブランド農業経営』

公開日:2020年07月15日

『最強の自社ブランド農業経営』武下 浩紹/著 秀和システム 『最強の自社ブランド農業経営』武下 浩紹/著 秀和システム

この本は、トマト農家からイチゴ農家に転換した後、産直イチゴ農家「楽農ファームたけした」を開業した著者の、新しいビジネス創造のチャレンジと自己変革の道のりが書かれています。

著者は、平成11年、26歳で実家のトマト農家に就農、平成14 年にイチゴ農家に転換しました。当時は、JAの苺部会に所属し、言われるがままに農作物を生産することで最低限の収入は保証されていました。しかし、最低限の収入に甘んじていたら10年後に希望が持てないと考え、「食えない農家」から脱出するためビジネスを学びます。農業をビジネスと捉え経営していくビジネス農家の道を歩み始めるのです。
高付加価値のイチゴを、どう育て、どうビジネスチャンスに繋げてゆくのか? 前半では、農家向けに具体的な実例や方法を紹介します。後半では、農家だけでなく、他の職業にも通じる、➀生産者側と購買者をつなぐWeb戦略 ②オフシーズン戦略 ③自社ブランド戦略と、武下流の成功哲学、例えば「いいものを作ったからといって、売れるとは限らない」「事業計画書が未来をつくる」「お客様によって磨かれる」といったことを指南しています。

現在、年商8000万円を超えるまでになった著者の、イチゴ農家は手段であり、自分の仕事を通じ人の成長を促進する技術が学べる、学んだことで人は変われるという揺るぎない自信と、「チャレンジには成功か失敗ではなく、成功か成長しかない」という熱い思いが詰まった一冊です。 

『2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ』

公開日:2020年06月16日

『2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ』松田 哲也/著 ザメディアジョン 『2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ』松田 哲也/著 ザメディアジョン

原爆ドームのすぐ近くに、2016年広島の新しいランドマークタワーとして誕生したおりづるタワーは、ビルの北向きの壁面に描かれた巨大な折り鶴の模様が目を引きます。

古いビルを取得しリノベーションして作られたこのタワーを「世界にひとつとして似たものがない唯一無二のタワー」だと、発案者で著者の株式会社広島マツダ代表取締役会長兼CEO 松田哲也氏は言います。
自動車販売会社の社長(当時)が、なぜ広島のこの場所に、何のために作ったのか。本書には、着想から完成までの経緯と細部までこだわり抜かれたタワーの様子、そこに込められた想いが丹念につづられています。

一方で著者は、自身の半生に触れ、おりづるタワーのもうひとつの見方を示します。おりづるタワーは、才能に恵まれた天才ではなく、自分のような負け続けた人生を歩んできた凡人が作った。だからこそ、自分と同じように周囲の期待に応えられない虚無感やプレッシャーを抱えてきた人たちに「やってやろうぜと言いたい」とエールを送ります。

そして、おりづるタワーのアイデアを考える中で、広島の街のグランドデザインにまで構想が広がっていったと述べる著者は、2045年、ちょうど被爆から100年後の節目の時を見据えます。どんな広島を次世代に渡したいのか、考えるのはそこに住む市民であり、今この時から考えていきませんかと私たちに投げかけています。

『はたらくきほん100 毎日がスタートアップ』

公開日:2020年05月15日

 『はたらくきほん100 毎日がスタートアップ』松浦 弥太郎/著  野尻 哲也/著 マガジンハウス 『はたらくきほん100 毎日がスタートアップ』松浦 弥太郎/著  野尻 哲也/著 マガジンハウス

この本の著者は、病気の予防・管理、ダイエットなどを目的とした管理栄養士監修のレシピ検索・献立作成サービスを提供している、(株)おいしい健康の共同CEOである松浦弥太郎氏と野尻哲也氏です。松浦氏はエッセイスト、クリエイティブディレクターとして活躍しており、2005年から2014年まで雑誌「暮しの手帖」の編集長を務め、2015年クックパッド(株)に入社。「くらしのきほん」編集長を経て、 (株)おいしい健康の共同CEOに就任しました。野尻氏は2004年に(株)UNBINDを設立し、代表取締役就任。2016年、クックパッド(株)からのMBO(Management Buyout)を経て、(株)おいしい健康を設立し、共同CEOに就任しました。

この本には松浦氏と野尻氏それぞれが今までの仕事での経験を通して確かめてきた「はたらくきほん100」と「リーダーのきほん100」が紹介されています。1つの話は1~2分程度で読める内容になっているので、読みたいところからさっと読むことができます。

松浦氏は「はたらくきほん」の1つとして「大変な時こそ力を抜く。」と述べています。この話の中の「そんな大変な時こそ、一旦冷静になって、力を抜くことを心がけましょう。ふっと力を抜くと、気持ちの上でも、頭の中にも、余白ができて、今どうするべきかがよくわかるものです。何か起きたら、まずは、肩の力を抜いて、リラックスすることが先決です」といった言葉からは、松浦氏が今まで直面した困難な事態を乗り越えてきたときの仕事に対する姿勢を感じることができます。 

未だかつて経験したことのない大変な状況ではありますが、仕事のやり方が大きく変化したり家で過ごす時間が増えたりしている今、この本を通して「しごとのきほん」を振り返ってはいかがでしょうか。仕事に悩んだ時、行き詰まった時、読者の背中をそっと押してくれる言葉がいっぱいつまった一冊です。

『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』

公開日:2020年04月15日

 『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』林 伸次/著 株式会社旭屋書店 『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』林 伸次/著 株式会社旭屋書店

この本は、22年続く老舗ワインバー「bar bossa(バールボッサ)」の店主である著者が、同業者ならではの視点で、「なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか」をテーマに、東京の気になる人気飲食店の店主にインタビューし、対談形式で書いています。

ワインバー・カフェ・立ち飲み店・酒場・和食店・多国籍料理店など、様々なジャンル20店の、開業のきっかけから準備、飲食店ならではの経営の話、たとえば物件の家賃や用意したお金、内装の費用、売り上げなどを、一歩踏み込んで聞いています。

20店に共通の成功法則を見出すのではなく、それぞれ違うビジネスモデルとして紹介し、仕事に対する店主の思いや生き方、繁盛する店に導いたストーリーを読者に伝えてくれます。そのキーワードは、行動力、発信力、バランス感覚、個性、人を育てる、可能性の探究、ワン&オンリーのお店などです。

各店主からは「いつか飲食店をやってみたいあなた」にエールを贈る一言があります。著者自身からも、いろんな人との出会いがあり、「飲食店をやるのは大変だけど、楽しい」という、真っすぐなお店に対する愛情が伝わってきます。

この本を読み終えた後、様々なストーリーがある飲食店を訪ねたくなり、また「自分もそんなお店をやってみたい」という気持ちになる一冊です。

『救急を救う男 医師・松岡良典が実現させた24時間365日絶対に断らないクリニック』

公開日:2020年03月19日

『救急を救う男 医師・松岡良典が実現させた24時間365日絶対に断らないクリニック』嶋 康晃/著 現代書林 『救急を救う男 医師・松岡良典が実現させた24時間365日絶対に断らないクリニック』嶋 康晃/著 現代書林

鹿児島県南九州市の過疎地・川辺町にある「松岡救急クリニック」は、地域のかかりつけ医として外来診療を行いながら急患を受け入れる救急専門の個人病院です。この本は個人で救急クリニックを開業した松岡医師の生きざまと、救急医療の一つの理想形を紹介しています。

ニュースで救急車が病院に受け入れてもらえず、たらい回しされるということを耳にしたことがあるのではないでしょうか。また、救急病院というと、大学病院や総合病院などの大・中規模の病院をイメージするのではないかと思います。

しかし、松岡医師は「近所のコンビニエンスストアのような使い勝手の良い救急クリニック」を目指し、「24時間365日患者を絶対に断らない」というポリシーのもと救急医として、地域に医療を提供しています。患者が困っていることを解決する・病気を治すということを一番に考えながらも、医療従事者の自己犠牲で成り立つのではなく、やりがい・休日・給与のワークライフバランスを重視しています。また、分院として同じ運営ノウハウによる救急クリニックを、全国の医療過疎地や医療僻地に広げる試みも進めています。

自分にしかできない新しい救急医療の形をつくるという思いがあるとはいえ、なぜ個人でこのようなクリニックを開業できたのか、日本の救急医療の問題はどのようなものなのかを松岡医師の姿から知ることができる一冊です。

『言葉の温度 話し方のプロが大切にしているたった1つのこと』

公開日:2020年01月17日

『言葉の温度 話し方のプロが大切にしているたった1つのこと』馬場 典子/著 あさ出版 『言葉の温度 話し方のプロが大切にしているたった1つのこと』馬場 典子/著 あさ出版

著者はフリーアナウンサーとして活躍している馬場典子さんです。

馬場さんは、本書の中で「『温かい言葉に救われた』『冷たい言葉に傷ついた』というように、言葉には"温度"があります」、「言葉の温度は、心を素(もと)にしながら、声のトーンや大きさ・話し方や聞き方・言葉遣い・ニュアンス・間・表情など、コミュニケーションの"総合力"なのです。」といわれています。

本書には、アナウンサーとしての経験に基づいた「伝わる」コミュニケーションのノウハウが満載です。声の出し方、話し方や言葉遣い、話の聞き方、言葉を伝えるときの心構えなどを磨く方法が、「心」「技」「体」に分けて紹介されています。また「初対面の印象をよくしたい」「プレゼンに臨むとき」などのシチュエーション別の伝え方のコツもあります。

本書のPart2「『体』伝わる声を身につけよう」で紹介されている、喉に負担をかけずに奥行きと張りのある声を出す腹式呼吸のやり方や、発音を明瞭にする口・舌・顔の筋肉をほぐすエクササイズは、誰でもすぐに実践できそうです。

「アナウンスメント技術は専門的なスキルと思われるかもしれませんが、決して特別なものではありません。むしろコミュニケーションの基本が詰まっている」と伝えています。
仕事では、上司や同僚や部下、仕事の取引先など様々な相手とのコミュニケーションが必要です。

この本を読んで"言葉の温度"は話し手の"心そのもの"と著者がいうように、自分の思いや言葉が相手に「伝わる」コミュニケーションを実践してみませんか。

『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』

公開日:2019年12月28日

『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』岩田 聡/(述) ほぼ日刊イトイ新聞/編 ほぼ日 『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』岩田 聡/(述) ほぼ日刊イトイ新聞/編 ほぼ日

「岩田さん」とは、ニンテンドーDS、Wiiといった革新的なハードをプロデュースした任天堂の元代表取締役社長の「岩田聡」(いわた さとる)さん。学生時代からアルバイトをしていたゲーム制作システムの開発などを行うHAL研究所に就職、開発者として数々のゲームを世に送り出し、33歳で社長に就任します。15億円の借金を抱えた状況からのスタートで、会社を立て直した後に、任天堂に入ります。

この本は、ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」に掲載された「岩田さん」のインタビューや対談などから抜粋したことばを、ひとり語りのかたちで再構成しています。まるで「岩田さん」が直接話しかけてくれているような気持ちで読み進めることができます。

「判断とは、情報を集めて分析して、優先度をつけることだ。」ということばは、HAL研究所の社長時代、会社が経営危機に陥っていたとき、社員ひとりひとりと面談を行ったなかで見つけたことでした。
「考えようによっては、仕事って、おもしろくないことだらけなんですけど、おもしろさを見つけるおもしろさに目覚めると、ほとんどなんでもおもしろいんです。」
「人がよろこんでくれる、というゴールさえあれば、どれだけ難しい問題であっても、当事者として取り組み、解決策を考えてしまう。」
などのことばからは、「岩田さん」の多彩なビジネスの経験からつくられた経営理念、価値観、哲学はもちろん、誠実であたたかい人柄まで伝わってきます。

「岩田さん」は、2015年7月、55歳で亡くなられます。
岩田さん自身は、生前は求められても著書を出す意思はなかったそうですが、深い縁があった糸井重里さんが、現在、そして未来に「岩田さん」のことばを残したい、と本にまとめたとのこと。読者それぞれの仕事や人生に響くことばがきっと見つかると思います。

『ニワトリをどう洗うか?実践・最強のプレゼンテーション理論』

公開日:2019年11月28日

『ニワトリをどう洗うか?実践・最強のプレゼンテーション理論』ティム・カルキンス/著 斉藤 裕一/訳 CCCメディアハウス 『ニワトリをどう洗うか?実践・最強のプレゼンテーション理論』ティム・カルキンス/著 斉藤 裕一/訳 CCCメディアハウス

著者のティム・カルキンス氏は、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授で、優れた教員として、教育活動で数多くの賞を受賞しています。彼は、8歳(1973年)のときに、「ニワトリの洗い方」という初めてのプレゼンテーションをコンテストで行って以降、5,000回以上のプレゼンテーションをこなしてきました。

この本では、著者がこれまで見てきた、教え子たちのプレゼンテーションでの失敗場面を基に、効果的なプレゼン術について紹介しています。また、自身の経験から得た、プレゼンの伝える力とそのスキルを高めるための方法について実践だけでなく理論についても書かれています。

具体的には、プレゼンの事前準備、内容、リハーサル、会場セッティング、そしてプレゼン中の行動、質問への対応やフォローなどについて基本から実践までの方策について述べています。また、「プレゼンテーション」という言葉から、学生がすぐに思い浮かべるという「TEDトーク」や、スティーブ・ジョブズのプレゼンについても触れ、ビジネスのプレゼンの場面にはそぐわないとしながらも、そこから学ぶことができるそれぞれのメリットについても説明しています。

著者は、優れたプレゼンテーションは、「人々の意見を変えさせ、支持や承認を得ることにつながりうる」ので、プレゼンのスキルが高まれば、確実に仕事の成果も向上するといいます。

プレゼンテーションは、ビジネスの様々な場面で、重要なスキルです。ぜひ、読んで実践する参考にし、効果的なプレゼンテーションの力を体感してみてください。

『新!働く理由 111の名言に学ぶシゴト論。』

公開日:2019年10月16日

『新!働く理由 111の名言に学ぶシゴト論。』戸田 智弘/著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 『新!働く理由 111の名言に学ぶシゴト論。』戸田 智弘/著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

著者は「仕事が面白くなかった」ため会社を3年間で辞め、資格取得や転職を重ねて、現在はフリーランスのライターやキャリアカウンセラーなどをされています。そのキャリア形成の中、仕事に関して悩んでいた時期に、著者が出会った心理学者ドナルド・E・スーパーの言葉で長年の霧がひとつ解けたような気がしたと述べています。

今働いている人や、これから働こうとしている人が働く理由を考える時は、不安であったり不満であったり何らかの思いを抱いているのではないでしょうか。著者はそのような時に働くということについて、一人で考えるのではなく人生の先輩たち(の名言)と心の中で対話しながら、思いをめぐらすことを勧めています。

この本は、1章では「ただ生きること」×「よく生きること」、2章では「〈好き〉を仕事にする」×「仕事を〈愛する〉」、などのように15章に分類し、111人の名言を解説しています。本書の中には時代もジャンルもさまざまな人たちの言葉や考えが詰まっています。

自分の今の仕事や、働きたいと思っている仕事に対して向き合うきっかけとなる言葉や、自分自身が感じていることを代弁したかのような言葉に出会えるかもしれません。

『ブルーチーズドリーマー 世界一のチーズをつくる。』

公開日:2019年09月25日

 『ブルーチーズドリーマー 世界一のチーズをつくる。』伊勢 昇平/著 エイチエス 『ブルーチーズドリーマー 世界一のチーズをつくる。』伊勢 昇平/著 エイチエス

北海道旭川市江丹別(えたんべつ)に住む著者の伊勢さんは、自分だけの肩書きとして「ブルーチーズドリーマー」と名乗り、「世界一のチーズを故郷の江丹別でつくる」ことを目指しています。この本は、彼の夢、世界一のチーズづくりの奮闘記です。

伊勢さんは、両親が江丹別で牧場の仕事をしていたことから、街の高校に通っていた頃、「どうやって街まで来てるの?馬?」などと言われ、悔しい思いをしたといいます。いつか世界に出て、かっこいい場所でかっこいい仕事をして偉い人間になってやる!と、英会話を習いはじめます。ある日、英会話の先生から「お前の親父は牛乳絞ってんだろ。じゃあその牛乳でめちゃくちゃ美味いチーズをつくったら、それだって立派なワールドワイドだぞ」と言われます。その言葉に衝撃を受け、世界一と呼ばれるチーズをつくることを考えるようになったそうです。

チーズ工房で見習いをしていた時、同じ製法でも原料が異なるチーズを食べ比べて、父の牛乳へのこだわりがチーズに活かせることに気付きます。そこで、世界のチーズの産地で江丹別と同じ気候の土地を調べると、ブルーチーズが有名なフランスのオーベルニュという地方があてはまりました。普通はリスクを分散させるため何種類ものチーズを作りますが、一週間の視察の帰国後は、一つのことを極め高め自分の夢を叶えようと、製造はブルーチーズのみと決意します。

チーズを販売できるようになってからも、青カビが生えないという事件が起こりました。季節の変化によってミルクの成分が変化した時に、上手くいかなくなるらしいのですが、原因がわからず、多くを廃棄して3年間を過ごすことになります。発狂しそうなほどの絶望の淵から、気持ちを入れ替えて、フランスで飛び込み修行をし、必要な知識と技術を学び再出発をします。

この本では、夢を叶えるために何をどう選択してきたか、自分の思いをどのように発信していくか、ブルーチーズづくりを通して経験した人生観、ものづくりのノウハウが詳細に書かれています。

「己の気持ちに正直であれ、だれもがみんなドリーマー!」の巻末の言葉が力強く伝わってきます。