調べもの

書評

『浅草かっぱ橋商店街リアル店舗の奇蹟』

公開日:2024年09月10日

『浅草かっぱ橋商店街リアル店舗の奇蹟』飯田 結太/著 プレジデント社 『浅草かっぱ橋商店街リアル店舗の奇蹟』飯田 結太/著 プレジデント社

浅草かっぱ橋といえば、食品サンプルや調理道具など食に関する専門店が並ぶ商店街で有名ですが、本書は、そこに店を構える飯田屋の6代目店主が「大切にし、実践していることを余すところなく紹介」した本です。

飯田屋は、大正元年(1912年)に創業した100年以上の歴史を持つ料理道具専門店です。品揃えの豊富さなどから、これまで多くのメディアに取り上げられています。老舗で話題性もある人気店として順風満帆に感じられますが、一時は廃業の危機に陥っていました。
著者は、大学時代に起業したWeb会社の仕事に励んでいましたが、夜遅くまで懸命に働く母の背中を目にし、「母の助けになりたい」と飯田屋で働くことを決めます。独自の手法で経営改革を始め、失敗を繰り返しながらも経営が徐々に改善していたさなか、半数を超える社員から「辞めたい」との申し出を受けます。
その時の自分を、経営者失格、後継者落第と言う著者が、何に気づき、どう変わっていったのか。

本書には、「蓋をして隠しておきたい過去」や「認めたくない恥ずかしい経験」となっている失敗談もさらけ出し、転機となった出会いのエピソード、感銘を受けた言葉や考え方がふんだんに盛り込まれています。
著者と同じ販売業や経営者としての視点だけではなく、業種の枠を超えて、多くの気づきを与えてくれます。誰のために仕事をするのか、何を大切にして働くのかをあらためて考えるきっかけとなる、そんな1冊です。

『書くのがしんどい』

公開日:2024年08月10日

『書くのがしんどい』竹村 俊助/著 PHP研究所 『書くのがしんどい』竹村 俊助/著 PHP研究所

本書は、編集者である著者が「誰でも書けるようになる」ノウハウを紹介した本です。

著者曰く、文章が書けない原因は「スキル」ではなく、気の持ちよう、つまり「メンタル」。文章を生み出そうという「メンタル」がそもそも間違いで、才能のある作家以外には難しいことだと指摘します。

ゼロから書こうと思わないこと。文章をゼロから生み出すことは難しくても、すでにある文章を修正することはできる。まず何も気にせず伝えたいことを書いてみて、そのあと冷静になって「編集者」の立場で文章を整えていく。自分の文章を自分で編集する、一人で二役できれば文章を書くことがずっと楽になるのだそうです。

また、どう書くかではなく、何を書くかにこだわること。ネタがなければ文章も書けない。そのために、「書く」の前には取材があるといいます。取材といっても、普段見たり聞いたりして気になったことをメモにとどめておくことが、いざ文章を書く時に役立つ。ふと感じたことについて、いちいち立ち止まって考えることも大切だと説きます。細かいことが気になる人や、イライラしがちな人は、それをアウトプットすると立派なネタになると言います。

多くの文例を使って、伝わらない・つまらないと言われない文章にするためのポイントを解説しており、仕事上で書くのがしんどいと思った時、書こうとしてもなかなか言葉が浮かばない時に読むと、ヒントをもらえます。

わかりやすい言葉で、誰に、どんなことを伝えたいか。そんなことを考えながら「書く」という行為を楽しめるようになりたいと思える本です。

『インタビュー大全』

公開日:2024年07月10日

 『インタビュー大全』大塚 明子/著 田畑書店 『インタビュー大全』大塚 明子/著 田畑書店

話す相手が面識のない人、人と話すのは苦手だと思う人などの場合、どうすれば会話を上手く進めていけるのか、と思う人は多いのではないでしょうか。

本書は、30年以上雑誌の仕事に携わってきた著者が、プロのインタビュアーが使っている、相手に能動的に話してもらうための「戦略」をわかりやすく紹介しています。

例えば、話を聞き出す方法の一つとして、人をポジティブに見ることを習慣化し、共感できそうなポイントを探しながら会話をしていくことを挙げています。そうして思ったことを言語化し相手に誤解なく伝えることで親近感が生まれ、良好な関係を維持しながら会話を進めることができると言います。また、テーブルを挟んで90度に座ると互いの距離が50~80cm程度となり、親密な関係を構築するのに程よい距離となるのだそうです。その他、会話の進行や方向性を左右する役割を担っているあいづちの打ち方や、相手の警戒心をときスムーズなコミュニケーションを成り立たせる自己開示についてなど、様々な戦略が紹介されています。

会話の糸口を見つけたい、会話でのコミュニケーションで良好な関係を築きたいと思っている人におすすめの1冊です。

『ニューヨークのクライアントを魅了する「もう一度会いたい」と思わせる会話術』

公開日:2024年06月11日

『ニューヨークのクライアントを魅了する「もう一度会いたい」と思わせる会話術』吉田 恵美/著 新潮社 『ニューヨークのクライアントを魅了する「もう一度会いたい」と思わせる会話術』吉田 恵美/著 新潮社

人がインテリアを変えようと思うのは、人生の節目であることが多いそうです。インテリアデザイナーという職業柄、そうしたタイミングに立ち会うことになる著者は、クライアントの人生を背負っているような思いで仕事をしています。デザインの完成に至る過程では、お互いが「気づいていない自分」を見つめるきっかけとなる時間を共有することで、クライアントの想定外の思いや気づかなかった感情を少しずつ引き出します。クライアントにとって最高の空間を作るためには、コミュニケーションが絶対に必要だと語っています。

ある日、小さなパティオ(壁や柱廊で囲まれた中庭)のデザインの依頼が来ました。インテリアではないのですが、著者は断るのではなく、どのような目的でその空間をデザインしたいのか尋ねます。自分が屋内デザインの専門であることを伝えた上で話を聞いていると、相手が求めているのは日本でいうところのサンルームに近い空間だということが分かり、依頼を引き受けます。とことん話を聞いて仕上げたパティオはクライアントを喜ばせ、さらに大きな仕事をまかせられました。

他にもアンティーク家具の好みが分かれる夫婦からの依頼など、対話することで成功につながった仕事が紹介され、クライアントと良い関係を築くヒントがつまっています。合わせてインテリアデザインの魅力も随所に書かれており、この職業に興味のある方にもお薦めです。

『大学生が本気で考えた「広島SDGs戦略」』

公開日:2024年05月10日

『大学生が本気で考えた「広島SDGs戦略」』松原 淳一/監修 南々社 『大学生が本気で考えた「広島SDGs戦略」』松原 淳一/監修 南々社

2024年4月27日から中国新聞にシリーズで掲載されている「イケてない?広島」では、若者の人口流出のなぜを探っています。アンケートでは「今後も広島で働き続けたいか」との質問に、他都市と比べて広島は「自分が成長しにくい」「働き方がちょっと古い」「閉塞感がある」との声があったそうです。

この本では、広島県から転出する若者が多いという課題について、広島文教大学の学生が調査・分析・提言しています。

第1部ではSDGs(持続可能な開発目標)の視点で広島県の現状と課題を整理しています。また、持続可能な社会であり続けるために人口減少対策は不可欠であるとし、若者の転出超過には広島県の産業構造の特徴が関わっていると述べています。こうした調査・分析の結果を基に、「若者が住みたい街」に広島がなるために、どのような産業を発展させるかを考察しています。

その上で、第2部「国際平和文化都市としての発展」では、都市型産業を念頭に、国内外の来訪者と市民が平和への思いを共有する「ピースツーリズム」の広がりを提言。また広島城や新サッカースタジアムの観光プロダクトとしての可能性や、図書館が街の賑わい拠点となりうる展望を述べています。

第3部「瀬戸内のブランド化による発展」では、リゾート産業を念頭に、現代アートによる地域振興や、地元アイドルのSTU48による地域への貢献などを提言しています。

様々な企業が将来を見据えたSDGs戦略を考え、社会問題を解決する取組も行われているでしょう。そこで、こうした若者たちの声を聞き、一緒に広島の未来を考える手がかりとして、この本を読んでみてはいかがでしょうか。

『高校生のための経済学入門』[新版]

公開日:2024年04月10日

『高校生のための経済学入門』[新版]小塩 隆士/著 筑摩書房 『高校生のための経済学入門』[新版]小塩 隆士/著 筑摩書房

日常的に、物価が上がっているから買い物を控えた、金利が上がるのは景気が影響しているなど、何となく理解はしていてもその仕組みを説明するとなると難しいものです。

本書は経済学の入門書で、経済学の全体像をつかむことができ、経済ニュースの捉え方や見方が理解できるように意識して書かれている点が特徴となっています。また、「Tシャツを買う決め手となる要因」と「需要曲線」など、身近なことと関連付けながら丁寧に解説しています。

2002年に初版が出版され多くの読者を得ていますが、新版では、「世界に目を向ける」という章が加わり、用語も「マネーサプライ」を「マネーストック」に改めるなど、現在の経済を取り巻く状況に対応しています。

筆者は、「私たちの日常生活は、無意識のうちに経済の仕組みにどっぷりと浸かっており、しかも私たち自身の行動も経済学的に説明できる」と言います。経済全体の動きを知ることで、自分の仕事や暮らし、さらには世の中の出来事にどう影響しているのかを捉えられるのではないでしょうか。

『未来職安』

公開日:2024年03月15日

『未来職安』柞刈 湯葉/著 双葉社 『未来職安』柞刈 湯葉/著 双葉社

科学技術の発展により、今ある仕事の多くがなくなるといわれています。AI(人工知能)に奪われる仕事は何か、どう対策したらよいかという話題をよく耳にしますが、仕事がAIに代替されることで働く必要がなくなるとしたら、私たちはどうするでしょうか。

本書は、車が自動運転になり、インターネットで注文した商品はドローンが配達してくれる、そんな少し先の未来を書いたSF小説です。小説の中では、多くの仕事が科学技術の発展によって機械化され、日本の国民は、生活基本金をもらって生活する99%の消費者と働いて所得税を納める1%の生産者で構成されています。
主人公の目黒奈津と機械が苦手な副所長の大塚さん、所長の猫の2人と1匹が働く職安(職業安定所)には、様々な理由で仕事を求める人がやってきます。この職安で紹介される仕事は、ロボットが作った日本食の演出のために店に立つ仕事、あえて防犯カメラに映り込んでAIの解析を妨害する仕事など、奇妙だけれど人間にしかできないものばかりです。

ほのぼのとした日常を軽やかな文体で書いた小説ですが、AIと仕事以外にも、近年注目されているベーシックインカム(※)もテーマになっており、私たちが直面する未来について考えさせられる内容になっています。
多くの仕事がAIに代替され、生活していくためのお金が国から支給されるとしたら、自分は生産者と消費者のどちらを選ぶのか。それはなぜなのか。本書を読むことで、自分にとって仕事とは、働くとはなにかを考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

※政府が性別や年齢、所得や資産を問わず、すべての国民に無条件で一定の金額を支給し、必要最低限の生活を保証する制度(『日経キーワード 2024-2025』より)

『なまえデザイン』

公開日:2024年02月15日

『なまえデザイン』小藥 元/著 宣伝会議 『なまえデザイン』小藥 元/著 宣伝会議

自社の商品やサービス、あるいは社内外で進めるプロジェクトなどのネーミングは、パッケージやパンフレット、企画書に書いた時点で完了すると思っていませんか。

名前は書くものというより生きものと考える著者は、なまえデザインとは「その先に必ずあるコミュニケーションやブランドや未来をデザインしていくことに他ならない」と言います。

本書では、名前とは何かということやネーミングに必要となる様々な発想法を解説しています。その一つに「価値ピラミッドをつくる。」という項目があり、強みや訴えたい価値を書き出しながら、順番をつけていくという方法が紹介されています。例えば、大ヒットしている冷え性の人向けの靴下「まるでこたつソックス」。メーカーが付けていた最初の商品名は「三陰交をあたためる」でした。最大の売りが何なのかを絞ってリブランディングした後、売り上げが17倍に。このように同じ商品でも名前を変えることでたくさんの人に改めてその商品を知ってもらう機会になり、数多くある商品の中から選ばれる一つになることもあります。

コピーライターとして活躍する著者の、思考プロセスを学べる一冊です。

『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』

公開日:2024年01月16日

『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』小林 せかい/著 祥伝社 『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』小林 せかい/著 祥伝社

未来食堂は、東京の神保町にあるカウンター12席の定食屋で、著者の小林せかい氏が一人で切り盛りしています。

日替わり定食1種類だけを提供し、夜以降は客が「冷蔵庫の在庫リスト」を見て選んだ2種類の食材と調理方法で作ったおかずも出す。1度来店した人なら誰でも50分お店を手伝うと1食分無料になる、飲み物は持ち込み自由だがお店に半分寄付する、月次決算、事業計画も公開する、など今までの飲食店にはないシステムで注目を浴びました。

このシステムは「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」を作るという理念のもと、元ITエンジニアである著者が、理系的・エンジニア的思考から発案したものです。

本書は、『未来食堂ができるまで』(小学館)、『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』(太田出版)に続く3作目です。

著者のこれまでの経験から、飲食店に限らず「何かを始めたい方へ伝えたいこと」に焦点を当て、「考え方」「やり方」「続け方」「伝え方」「人を動かす瞬間」について具体的に説明しています。また、「注目を集めた時に気を付けたいこと」についても述べています。

何かを始めたいと思っている方や、1歩を踏み出せずに悩んでいる方に、参考になるメッセージが詰まっている本です。

『道をひらく』

公開日:2023年12月15日

『道をひらく』松下 幸之助/著 PHP研究所 『道をひらく』松下 幸之助/著 PHP研究所

毎年、数多くのビジネス書が出版されますが、数年経つと絶版となってしまうケースが多い中で、ロングセラーになる本が存在します。1968年に出版され、累計発行部数が550万部を超えているこの本もその1冊です。

著者は、大正・昭和期の実業家、松下電器産業株式会社(現在のパナソニック)の創立者であり、「経営の神様」と評された松下幸之助氏。

本書は、1946年に著者が設立したPHP研究所の機関誌として発行された「PHP」の裏表紙の連載の短文の中から選んだ121編をまとめたものです。

自分には自分だけに与えられた道があり、たとえどのような道であろうとも自分の道を休まずに歩み続けることの大切さを説いた冒頭の「道」を始め、仕事や人生について、著者の思いが綴られています。

現在の社会事情等に合わない部分もありながら、時代や世代を超え、決して色あせることなく今もなお読み継がれているのは、著者の人生観から紡がれる言葉の一つ一つが読み手の心に届くからでしょう。ロングセラーとなる本の魅力を感じてみませんか。